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福岡高等裁判所 昭和60年(ラ)69号 決定

抗告人 ○○町長 ○○○○

相手方 中尾一臣

主文

原審判を取消す。

相手方の申立を却下する。

前審及び抗告審の費用は相手方の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二  本件記録によれば、次の事実が認められる。

1  相手方は、肩書住所地で行政書士の業務を営むものであるが、昭和57年6月初旬ころ、本籍佐賀県佐賀郡○○町大字○○○×××番地筆頭者鳥山清の除籍謄本の交付を受ける必要が生じたため、右交付申請書に600円の郵便切手を同封して、これを抗告人に郵送し、右申請書は同月8日抗告人に到達した。しかし、右申請書の申請人欄には「行政書士中尾一臣事務所」と表記したゴム印が押捺されているだけで、その名下に相手方の職印は押捺されておらず、行政書士の資格を証する資料は添付されていなかつた。

2  そこで、抗告人は、同月9日、相手方に対し、前記申請書の申請人欄に行政書士の職印を押捺し、かつ、手数料を現金又は為替で納入されたい旨記載した附せんを添付し、右の点を補正したうえ改めて申請することを求め、前記郵便切手のうち返送料に相当する60円の郵便切手を差し引き、その余の郵便切手とともに右申請書を返送した。

3  相手方は、抗告人に対し、同月14日抗告人に到達した郵便で、前記除籍謄本交付申請書とその申請に要する手数料及び郵送料に相当する郵便切手を同封して再びこれを送付した。しかしながら、相手方は右申請書の申請人欄の「行政書士中尾一臣事務所」の名下に行政書士の職印を押捺することなく、単に「中尾」と刻した認印を押捺し、同申請書の末尾に「職務上の請求」と付記していたに過ぎなかつた。

4  抗告人は,相手方が前記2の指導にもかかわらず、あえて行政書士の職印を押捺していなかつたことにより、同月24日、相手方に対し、「貴事務所より請求のありました件ですが、申請書に職印が押してありませんでした(以前の請求のさいも職印がなかつたので返していると思います。)。そこで、申請書に必ず職印を押して申請して下さい。申請書が着きしだい至急送りますので、よろしくおねがいします。」と記載した附せんを添付して右申請書を郵便で返送した。

5  相手方は、同月29日、佐賀家庭裁判所に対し、本件不服申立をした。

三  そこで、1件記録に基づき、抗告の理由について以下判断する。

1  抗告人は、まず、抗告人が本件についてとつた措置は、相手方に対して前記申請書に職印を押捺して行政書士の資格を明確にして再送付するよう行政指導をしたに過ぎないものであつて、相手方の申請を拒否したものではない旨主張する。

(一)  戸籍法12条の2第1項は、除かれた戸籍(以下「除籍」という。)の謄抄本等の交付請求をなし得る者について、除籍に記載されている者又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属、並びに国又は地方公共団体の職員、弁護士その他法務省令で定める者と決定し、同第2項において、右以外の者でも相続関係を証明する必要がある場合その他法務省令で定める場合に限り(戸籍法施行規則11条の3第1項)、これを請求することができる旨定めている。このように除籍の謄抄本等の交付請求について、戸籍の謄抄本等の交付請求に比し、より厳格な要件を課しているのは、除籍には旧民法中の庶子、私生児等のほか族称として、華族、士族、平民の別が記載され、また、出生地や死亡地等が詳細に記載されているほか過去の身分関係も記載されていること等から、これが一般に公開されるときは当該除籍に登載されている個人のプライバシーが不当に侵害される虞れがあり、右身分上の記載が網ら的であるため、戸籍に比し、プライバシー保護の要請がより高いことによるものである。

(二)  ところで、戸籍法は、戸籍の謄抄本等の交付請求者は、原則としてその請求の事由を明らかにしなければならない旨(同法10条2項)、また、同法12条の2第2項により除籍の謄抄本等の交付請求をする者は、その請求をなしうる場合であることを明らかにしなければならない旨(同法施行規則11条の3第2項)それぞれ定めている。そして、右戸籍事務の取扱いについて、法務省民事局長通達をもつて、請求の事由は、請求の当否を判断できる程度に具体的に記載することを要し、市町村長は、必要に応じ、請求者に対し説明を求め、又は疎明資料の提示を求めることができるものとしている(昭和51年11月5日法務省民二第5641号民事局長通達一の7)

これに対し、戸籍法12条の2第1項後段、同法施行規則11条の2第1項2号第2項は、前記(一)の例外として、国又は地方公共団体の職員、弁護士、司法書士、行政書士等からの職務上の謄抄本等の交付請求については、その請求の事由を明らかにすることを求めていない。これは、右公務員あるいは弁護士等は、その職務の遂行上他人の戸籍、除籍の謄抄本等を利用することが多く、これらの者が右謄抄本等を利用することによつて知り得た事項については、守秘義務があること(国家公務員法100条、地方公務員法34条、弁護士法23条、司法書士法11条、行政書士法12条等)から、個人のプライバシーが侵害される虞れがないものと認められることなど諸般の事情が考慮された結果によるものである。

(三)  そうすると、戸籍事務の取扱上、除籍の謄抄本等の交付請求については、まず、その請求の資格の有無について、これを明らかにすることが求められる。

そのため、法務省では、昭和51年法律66号により改正された戸籍法の施行にあたり、日本弁護士連合会、日本司法書士会連合会、日本行政書士会連合会等に対して、「市町村の窓口における戸(除)籍謄本等の交付事務、特に請求資格の審査事務を容易にするため、請求書には、その資格を具体的に明記するとともに、可能な限り職印等を押印願いたい。」として、戸籍、除籍の謄抄本等の交付請求には請求者の職印を押捺するようその協力方を求め「昭和51年11月10日法務省民二第5803号民事局長依頼)、戸籍の不当な利用を排除する目的のもとに、請求者の資格審査の基準を明らかにした。

ちなみに、行政書士は、行政書士法施行規則11条1項により職印の調製が義務づけられており、更に同規則9条4項により職務上作成する書類には、その末尾又は欄外に作成の年月日を附記し、記名して職印を押捺しなければならないとされている。従つて、行政書士が職務上書面によつて除籍の謄抄本の交付請求するには職印を押捺しなければならないのであつて、前記日本行政書士会連合会に対する民事局長依頼はいわば当然のことを要請したに過ぎないことにもなるのである。

(四)  本件についてみるに、前記のとおり、相手方は本件除籍の謄本の交付請求をなすにあたり、抗告人に対し申請書を郵送してその交付を求めたものであるところ、申請人欄に「行政書士中尾一臣事務所」と表記したゴム印を押捺し、その名下に単に「中尾」という個人の印章を押捺していたに過ぎないのであるから、抗告人が前記戸籍事務の取扱基準に従い、申請人の資格審査に必要であるとして、右申請書に行政書士の職印の押捺を求めてこれを返戻したことは、当然の措置をとつたものというべく、右措置は単なる行政指導の域を出ないものと認めるのが相当である。

けだし、相手方が行政書士の資格を有することは本件記録上明らかであるから、相手方が右申請書に行政書士の職印を押捺することは職務上義務づけられているばかりでなく、右職印の押捺は容易にこれをなし得る事柄であり、他方、相手方において右申請書に職印を押捺して再申請するときは、右申請どおりの除籍謄本が交付されるであろうことは、抗告人が右申請書を返戻するに際し添付した附せんの記載内容からも明らかなところであるから、これらの事情を考慮すると、抗告人が職印の押捺を求めて右申請書を返戻した措置をとらえて拒否処分にあたるものと解することはできないからである。

そうすると、この点に関する抗告人の右の主張は理由があるものといわなければならない。

2  次に、抗告人は、原審判は本件の除籍謄本の交付請求につき手数料を郵便切手で納付しようとしたことが違法であると認めながら、右謄本の発行を抗告人に命じた違法がある旨主張する。

(一)  相手方が抗告人に対し、本件除籍謄本の交付申請に際し、その申請手数料を現金又は為替で納付するよう指導を受けながら、あえて申請書とともに手数料相当額の郵便切手を同封送付したことは前記認定のとおりである。

(二)  戸籍、除籍の謄抄本等の交付請求には手数料を納めなければならず(戸籍法10条1項、12条の2第1項)、納付された手数料が市町村の収入となることは同法5条1項に明示するところである。そして、市町村の収入となる手数料の納付方法については、法令上別段の定めがない限り現金で納付すべきところであるから、郵便切手による代納は許されないものというべきである。

(三)  原審判は、従来、郵便切手をもつて手数料を代納する例はかなり多くみられる旨説示するけれども、これを認めるに足りる証拠はない。また、原審判は、郵便切手による代納を許容しないことは請求者に対して著しい不利益を与えることになる旨説示する。しかしながら、郵便により戸籍、除籍の謄抄本等を交付請求する場合には簡便で安価な定額小為替を添付して手数料を納付する方法があるのであるから、必ずしも請求者に著しい不利益を与えることにはならないし、相手方は行政書士として官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とし、行政手続に精通している者であつて、原審判の説示するような啓蒙指導の対象になる者とは認められない。

従つて、郵便切手による手数料の代納を認め、抗告人に除籍謄本の発行を命じた原審判は不当であり、この点に関する抗告人の右主張も理由がある。

四  以上説示のとおりであつて、相手方の本件不服申立は理由がないから、これを認容した原審判を取消し、右不服申立を却下し、前審及び抗告審の費用はすべて相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 新海順次 裁判官 山口茂一 萱嶋正之)

抗告の趣旨〔略〕

抗告の理由

原審判には、次の違法があるので、これを破棄の上、相手方の申立ての却下を求める。

一 事案の概要

本事件の経過は、次のとおりである。

(1) 昭和57年6月8日相手方から抗告人に対し、本籍佐賀県佐賀郡○○町大字○○○×××番地筆頭者鳥山清の除籍謄本交付申請書と手数料及び郵送料と考えられる郵券600円が郵送された。同申請書の申請者名は「行政書士中尾一臣事務所」と表示されたゴム印が押捺されていたが、相手方の印鑑は押捺されていなかつた。

(2) 抗告人は、同月9日申請書に行政書士の職印を押捺すること及び手数料は、現金または為替で納入すること等を付せんに記載し、これら不備な点を補正したうえで改めて申請しなおすよう指導して同日前記申請書を相手方に返戻した。

(3) 相手方は、抗告人に対し、同月14日前記除籍の謄本交付申請書を再度郵送してきたが、同申請書には職印の押捺はなく、「中尾」の認印が押捺されており、なお末尾に「職務上の請求」と付記されていた。また、手数料及び郵送料に相当する郵券が同封されていた。

(4) 抗告人は、相手方が抗告人の指導にかかわらず、あえて職印を押捺しなかつたことにより、相手方の行政書士の資格に疑問を抱いた。そこで、申請書に相手方の職印を押捺するよう付せんに記載し、同月24日前記交付申請書とともに相手方に返送した。

(5) 相手方は、同月29日佐賀家庭裁判所に対し、本件不服申立てをした。

二 行政処分の不存在

原審判は、抗告人の本件においてとつた行為は、相手方の除籍謄本交付(送付)請求に対する拒否処分であると認定しているが、この認定は、以下に述べるとおり失当である。

(1) 抗告人が、本件においてとつた措置は、前記一(4)のとおり相手方に対して申請書に職印を押捺し、行政書士の資格を明確にして再送付するよう行政指導したにすぎないのであつて、相手方の申請を拒否したものではない。

このことは、抗告人が相手方に送付した付せん(相手方疎明資料第2号)の記載「(職印を押捺した)申請書が着き次第至急(除籍謄本を)送りますので、よろしくお願いします。」からも明らかである。

(2) 戸籍法第118条の規定による不服申立てに関し、戸籍謄本等交付申請書の返戻行為をもつて拒否処分と認めた裁判例としては、本件原審判のほかに、神戸家裁昭和50年5月22日審判(家裁月報27巻7号75頁)、福岡高裁昭和51年6月28日民事四部決定(判例時報822号61頁)等があるが、これらの審判等は、

ア 申請書に市町村所定の要領に定める同意書等の添付が無いことを理由に申請書を返戻した事案であつて、そもそも補正困難な事例に属する事案であつたこと。

イ 本件は、昭和51年法律第66号による戸籍法改正により、新たに設けられた同法第12条の二の規定に基づき、市町村長が除籍謄本の交付請求者の資格の記載の補正を求めたものであつて、同じ申請書の返戻行為であつても、補正そのものが職印の押捺を求めるものであるところから必然的に申請書の返戻を伴う事案であつたこと。

等により、本件の先例としては適切ではない。すなわち、本件申請書の返戻行為は申請書の補正を求めた行政指導であつて、交付申請に対する拒否処分に当たるということはできない。

なお、交付申請書の返戻行為をもつて直ちに拒否処分と解すべきではないとする裁判例としては、大阪地裁昭和24年12月23日判決(行裁月報23号405頁)、秋田地裁昭和26年12月18日判決(行裁例集2巻12号2238頁)、大阪地裁昭和53年5月26日判決(行裁例集29巻5号1053頁)がある。

三 本件請求者の資格について

(1) 仮りに、抗告人の相手方に対する措置が原審判のとおり行政処分であるとしても、行政処分の違法性についての司法審査は、行政処分時を基準時としてその違法性の有無を判断すべきであり、しかも、本件請求には、(2)以降で記載するとおり、その請求者の資格について、その請求時において十分に疑うべき理由があるにもかかわらず、原審判は、本件請求の請求者の資格について抗告人が疑念をさしはさんだとしても必ずしも不自然なことではないとしながら、本件処分の後にされた審理により被抗告人が行政書士であることが判明した結果にとらわれて、本件申立てを認容した違法がある。

(2) (一) 戸籍法は、戸籍及び除籍について、無制限の公開をせず、これを制限している。その趣旨は、戸籍公開の制度は本来正当な目的を有する者に対してのみこれを利用させるものであつて、正当な目的を有しない者に対してまで利用を許す趣旨でなく、しかも、戸籍及び除籍には国民のプライバシーである身分上の地位が網らして記載されているため、戸籍及び除籍の謄抄本等がみだりに公開されると当該戸籍又は除籍に登載されている個人のプライバシーが不当に侵害されるおそれがあるからである。そして、戸籍法第10条第3項は、戸籍の謄抄本等の請求が不当な目的によることが明らかなときは、市町村長がこれを拒むべき旨を定め、また同法第12条の2は、除籍の謄抄本等の交付請求について一定の者(第1項)及び相続関係を証明する必要がある場合その他法務省令で定める正当性がある場合に限り(第2項、同法施行規則第11条の3第1項)、謄抄本等を請求できる旨定めているのである。このように戸籍法が除籍の謄抄本等の交付請求につき戸籍の謄抄本等の交付請求よりもさらに厳格な要件を課しているのは、除籍にはかつて旧民法中の庶子・私生児等のほか族称といわれる華族・士族・平民の別等の記載がされていたこと、また、出生地・死亡地等が詳細に記載されているほか、過去の身分関係も記載されていること等から、戸籍に比して、より保護の要請の高いプライバシーが記載されているためである。そして、不当な請求により戸除籍の謄抄本等が発行されることを防止するため、戸籍については市区町村長がその請求の当否を判断する手がかりとして、原則として請求者はその請求の事由を明らかにしなければならないとされ(戸籍法第10条第2項)、また、除籍については除籍の謄抄本等を請求しうる場合であることを請求者が明らかにしなければならないとされている(戸籍法第12条の2、第2項、同法施行規則第11条の3第2項)。更に、請求の事由はその性質上当然に請求の当否を判断できる程度に具体的に記載して明らかにすべきものであり、必要に応じ、市区町村長は請求者に説明を求め、または疎明資料の提示を求めるべきものとされているのである(資料1「昭和51年11月5日法務省民二第5641号民事局長通達1の7」参照)。

(二) ところで、戸籍法は、前記(一)の例外として、弁護士・司法書士・行政書士等からの職務上の謄抄本の請求については、その請求をする事由を明らかにすることを求めてはいない(戸籍法第10条第2項、第12条の2第1項後段、同法施行規則第11条3号、第11条の2第1項第2号)。これは、弁護士等は、その職務上、他人の戸・除籍の謄抄本等の利用を必要とする場合が多いこと、正当な職務上の請求である限り不当な目的によるものではないことは明らかであること、更に謄抄本等に記載されている事項については、職務上知り得た秘密であり守秘義務があること(弁護士法第23条、司法書士法第11条、行政書士法第12条等)等から、みだりに個人のプライバシーが侵害されるおそれがないものと考えられるからである。

このことからすると、弁護士等からの戸・除籍の謄抄本等の請求については、一般の私人等からの請求と異なることを明らかにするため、当該資格を有する者からの請求であることを明らかにしてされなければならないことは言うまでもなく、しかも、市区町村長の審査は、原則として提出された申請書のみから判断する形式的審査に限られることから、当該資格を詐称して請求しているのではないことが一義的に明らかになる方法で請求しなければならないというべきである。

そのため、法務省では、戸籍の公開を制限した戸籍法を改正する昭和51年法律第66号の施行に当たり、日本弁護士会連合会・日本司法書士会連合会・日本行政書士会連合会等に対して、「市町村の窓口における戸(除)籍謄本等の受付事務、特に請求資格の審査事務を容易にするため、請求書には、その資格を具体的に明記するとともに、可能な限り職印等を押印願いたい。」として、戸除籍の謄抄本等の請求書には請求者の職印の押捺を求め(資料2「昭和51年11月10日法務省民二第5803号民事局長依頼」)、これにより当該謄抄本交付請求が、資格を有する者からのものであるか否かの審査の基準の一つとすることとしたのである。この取扱いは、本件事案のような特殊な例外を除き、全国いずれにおいても励行されているのである。まして本件は、戸籍に比してよりプライバシーを保護すべきである除籍の謄本の請求であるから、なおさら厳密に審査すべき場合であり、また、郵便による請求であつて他に容易に請求者の資格を確認する手段がない場合であるから、職印の押捺がないことは、除籍の謄本を請求することのできる正当の事由を前記のように審査方法に制約のある市町村長に対して十分に明らかにしていない請求と同視し得るというべきである。

(三) 近時、個人のプライバシーの保護を求める国民の要望はますます強くなり、戸・除籍に比して個人のプライバシーにかかわる身分上の情報量の格段に少ない住民票についても、昭和60年法律第76号による住民基本台帳法の改正により、その写しの発行について戸籍法と同様に公開の制限の措置がとられた。更に、同法の改正法案に対する審議に当たり、衆議院及び参議院の各地方行政委員会は、「住民基本台帳の閲覧、写しの交付及び戸籍の附表の写しの交付については、正当な目的によるものについて支障が生じないようにするほか、不当な目的による請求のチエック、請求者の本人確認を厳密に行う等、厳正な運用を図るとともに、個人情報の保護の在り方についてさらに検討を進めること」との附帯決議をしている(資料3及び4)。この一事からみても戸・除籍の謄抄本の請求について、請求者の資格の確認をより厳密に行うべきことは国民的要請であることが明らかであるといつても過言ではない。

(3) 行政書士は、行政書士法施行規則第11条1項により職印を調製しなければならないものとされ、同規則第9条第4項により職務上作成した書類には、その職印を押捺しなければならないとされている。したがつて、行政書士が職務上、書面によつて戸・除籍の謄本を請求する場合にその職印を押捺しないことは、同規則に違反することが明らかである。

(4) (一) 本件の除籍の謄抄本の請求は、郵送でされたが、最初の昭和57年6月8日の請求書には、相手方の住所、資格、氏名についてゴム印が押捺されているにすぎず、また手数料として郵券が同封されていたのである。

(二) そのため、抗告人としては、

イ 前記三(3)のとおり行政書士としては職務上作成した書類には職印を押捺すべき義務があり、しかも前記三(2)(二)のとおり法務省から戸・除籍の謄抄本等の請求書には職印を押捺するよう行政書士に対して依頼がされているのに、本件の請求書には職印の押捺がなく、

ロ しかも、後記四のとおり郵券をもつて手数料を納付することは違法であり、また、官公署に提出するその他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする行政書士としては(行政書士法第1条参照)、郵券をもつて手数料を納付することができないことを当然熟知しているべきであるのに手数料として郵券を同封していたことから、

本件の請求が、行政書士の資格を有しない者からその資格を詐称してされた請求である可能性があると判断し、同人が行政書士であることを確認するため職印の押捺を求めるとともに、手数料を適法に納付することを求めて、前記の請求書を相手方に返戻したものである。

なお、原審判は、担当職員が自己の判断のみで審査し、その請求を処理したことをあたかも非違があつたかのように判示するが、同職員は行政組織上、抗告人の審査権を行使して本件を処理したものであり、同職員の処理は抗告人の処理そのものであり、ここで問題となるのは職員の処理ではなく、本件の返戻行為そのものの当否のみなのである。

(三) ところが、相手方は抗告人が前記(二)のとおり求めた補正に対し、一挙手一投足をもつて職印を押捺でき、かつ、これを義務づけられている立場にあり、また、戸籍の不当利用の防止のため進んで市町村長に協力すべき職業倫理上の義務を負う行政書士であるにもかかわらず、これに代えてあえて私印を押捺した請求書を同月14日に抗告人に郵送し、また、手数料として再度郵券を同封してきたのである。

以上の事情の下においては、抗告人としては行政書士の職印の押捺の拒否から本件の請求が行政書士の資格を詐称してされたものであることを疑うことは当然であり、また郵券の納付という違法な手数料の納付方法をあえて続けていることもその疑いを増す理由となるのは当然である。そこで、再度、その資格を抗告人に明らかに判断できるように職印の押捺を求めて、同月24日に同請求書を返戻したものである。

(四) 以上のとおり、抗告人には、本件の請求が行政書士の職務上の請求であることについて、請求書上確認できなかつたので、本件請求書を返戻したのであつて、これらの措置について何ら違法な点はないのである。

この点、原審判は何故相手方があえて本件請求書に職印を押捺しないのかについて抗告人が疑問を抱き、ひいては、相手方の行政書士の資格に疑問をさしはさんだとしてもそれは必ずしも不自然なことではないと正当に判示しながら、請求書に相手方の住所、資格、氏名がゴム印で押捺されていることを主たる理由として、本件の請求者について行政書士の資格に欠けるとして請求書を返戻したのは相当でないとしたことは極めて不当といわなければならない。

すなわち、行政書士の資格を詐称しようとする者は、住所、氏名及び行政書士と刻印したゴム印等を廉価にかつ容易に作成できる。このことは、最近明らかになつた弁護士を詐称して戸除籍の謄抄本を請求して弁護士法第74条違反により逮捕起訴された事件において、被告人が弁護士の職印まで偽造していたことからも明らかである(資料5)。したがつて、前記のようなゴム印が押捺されているからといつて、そのことのみで当該請求者がその資格を有していることの証左となり得ないのは明らかであるといわざるを得ない。また、原審判では、その他に総体的に判断すべきであるとするが、前記のとおり、本件の請求者は職印を押捺するよう補正を求めたのに対し、あえて認印を押捺し、適法な手数料の納付を拒否しているのであるから、総体的に判断したとしても、本件請求書自体からみて無資格者からの請求ではないかとの疑問をぬぐいさることは困難と言わざるを得ないのである。

(5) 昭和58年度における全市町村の謄抄本等発行件数(官公署等の無料請求を除く。)は、総数24,847,941件の多きに昇つており(資料6)、その多くは弁護士、行政書士等有資格者の職務上の請求に基づくものであるが、このような大量の請求を適正迅速に処理するためには、資格、住所、氏名の明記、職印の押捺等の画一的基準によることを原則とせざるを得ず、すべての請求につき、原審判のいうがごとき「総体的判断」を行うことは不可能を強いることに他ならない。職印の押捺を拒絶するような者にも謄抄本の発行を許容する原審判が是認されるならば、資格を詐称した請求がみすごされることによりプライバシーの侵害事象が多発し、差別的行為を助長する結果となるか、あるいは、これを防ぐため市町村において個別的審査を全件につき行うこととなり、正当な目的をもつて戸籍の謄抄本を請求する善意の利用者が著しく不利益を受けるかのいずれかの結果になることは明らかである。原審判には、全国的な見地からの制度の機能の観点が欠落しており、このような考え方が是認されるならば、戸籍公開制度全体に対する損害は測り知れないというべきである。

四 手数料の納付

(1) 原審判は、本件の除籍の謄本の請求につき郵券で手数料を納付しようとしたことが違法であると認めながら、すなわち適法な手数料の納付のないことを認めながら、謄本の発行を抗告人に命じた違法がある。

(2) 戸・除籍の謄抄本等を請求するには、手数料を納付しなければならず、納付された当該手数料は、市区町村の収入とすることとされている(戸籍法第10条第1項、第5条第1項)。

そして、市区町村の収入となる手数料の納付方法については、手数料という金員の納付である以上(戸籍手数料令)、法令上別段の定めがない限り現金で納付すべきことは言うまでもない(財政法第2条第1項参照)。

この点、手数料の納付方法についての別段の定めとしては、後記〈1〉~〈3〉があるが(○○町においては〈1〉の納付方法を定めた条例はない)、郵券をもつて納付できることを定めた規定はない。

また、郵券の売却収入は、郵便に関する料金であつて(郵便法第32条)国の収入として郵政事業特別会計に属するものであり、かつ、購入済の郵券と引替えの現金還付は禁止されているから(同法第38条)、手数料に代えて郵券が提出されても、なんら市町村の収入とはならないのである。

したがつて、郵券をもつてする手数料の納付が違法であることは明らかであり、手数料に代えて郵券を同封してする戸・除籍の謄抄本等の請求は、手数料の納付がない違法な請求というべきである。

〈1〉 証紙による納付(地方自治法第231条の2第1・2項)

普通地方公共団体が条例に定めるところにより当該団体の証紙を発行している場合には、当該証紙をもつて納付することができる。

〈2〉 口座振替、証券による納付(同条第3項、同法施行令第156条)

〈3〉 証券の提供を受けている証券の取立てによる納付(同法第231条の2第5項、同法施行令第157条第1項)

(3) この点原審判は、従来、郵券をもつて手数料を代納する例はかなり多くみられたから、「戸籍事務管掌者としては、今後、前記手数料の納付について手続上簡便で安価な方法(たとえば郵便局の定額小為替など)を利用するよう啓蒙指導をさらにはかるべきであり、郵券で手数料を代納したからといつて、もし交付(送付)請求を拒否する措置をとるとするならば、それは請求者に著しい不利益を与えることになり、権衡を失する処分になるというべきである」とする。

しかし、○○町においては原審で主張したとおり、郵券による手数料の代納を認容したことはないから、同町に関する限り権衡を失することはありえず、また、現時点において、他の市町村において郵券による代納を許容している証拠はないから、原審の判断はその前提を欠くといわねばならない。

また、原審判は、郵券による代納を許容しないことは「請求者に対して著しい不利益を与える」とするか、何人といえども行政庁に違法な請求の許容を求める利益はないのであるから、原審判は存在しない利益が侵害されるというに等しく、吾人の理解を超えたものである。

また、本件のように郵便によつて戸籍の謄抄本等を請求する場合には、定額小為替を添付して手数料を納付する他はないが、定額小為替は郵券と同様郵便局において販売されているものであり、その購入・添付につき特別の手数を要せず、一般人に不利益を課すものではない。

(4) 昭和58年度における全国の戸籍の謄抄本等の交付手数料の総額は、7,951,100,700円であるが(資料6)、原審判が是認されるならば、この手数料のすべてが郵便切手によつて納付しうることとなり、これが地方公共団体の財政に及ぼす影響は、図り知れないものとなろう。

また、相手方は行政書士であつて、官公署に提出する書類その他権利・義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とし、行政手続について熟知しているか、もしくは熟知すべき者であり、今更原審判の判示するような啓蒙指導の対象となるような者に該当せず、しかも、最初に請求書を返戻したときに郵券をもつて手数料を納付することができない旨指導しているのであるから、相手方は原審判が考慮している者に該当しないことは明らかである。

〔参照〕原審(佐賀家 昭57(家)667号 昭60.7.31審判)

主文

1 相手方佐賀県佐賀郡○○町長は、昭和57年6月14日到達の申立人からの同月12日付戸籍謄抄本等交付申請書をもつてなされた本籍佐賀県佐賀郡○○町大字○○○×××番地筆頭者鳥山清の除籍謄本の交付(送付)請求について、同申請書に申立人の職印の押捺がないこと及び手数料を郵券で代納したことを理由として、これを拒んではならない。

2本件手続費用は、相手方の負担とする。

理由

1 申立ての趣旨

主文とほぼ同旨。

2 申立ての理由

(1) 申立人は、肩書住所地で行政書士の業務を営むものであるが、昭和57年6月12日付の戸籍謄抄本等交付申請書により、主文掲記の筆頭者鳥山清の除籍謄本の交付(送付)請求のため、同申請書住所欄に、「神戸市兵庫区○○町×丁目×番××号」、氏名欄に「行政書士中尾一臣事務所」と表示されたゴム印を押捺し、その右横に「中尾」の認印を押捺して、申請者の住所、職業、氏名を明記し、末尾に「職務上の請求」と記載し、行政書士が職務上必要とする場合であることを明らかにしたうえ、手数料及び郵送料として該料金に相当する郵券を添えて、同日相手方に郵便で発送し、同申請書は同年同月14日に相手方に到達した。

(2) 相手方は、当該申請書に、行政書士である申立人の職印が押捺されていないことを理由に、上記交付(送付)請求を拒否し、同申請書を申立人に返戻したが、この措置は戸籍法第12条の2第1項、同法施行規則第11条の2に違反し、不当であるから、同法第118条により、相手方の上記交付(送付)請求拒否の処分に対し不服の申立をする。

3 相手方の意見

(1) 相手方が本件について行つた措置は、申立人に対し、行政書士の資格を有することを確認できるよう職印の押捺を求め、除籍謄本の交付(送付)請求手続の不備を指摘し、改めて交付(送付)申請手続を行うように、戸籍事務管掌者として行政指導を行つたにすぎず、戸籍法第118条にいう戸籍事件についての市町村長の処分には該当しない。

(2) 仮りに、相手方の行為が拒否処分に該当するとしても、戸籍法第12条の2第1項後段及び同法施行規則第11条の2第1項第2号の規定に照らし、申立人が行政書士の職印を押捺しない以上、相手方としては申立人の行政書士の資格の有無について確認ができないのであるから、相手方の本件請求拒否の処分は適法である。

(3) 仮りに、相手方の上記処分が違法であるとしても,申立人は交付手数料に相当する郵券を送付し、手数料を郵券で代納しているが、これは、戸籍手数料令及び会計処理手続上許されるものではないから、この点からしても、申立人の請求を拒否せざるを得ない。

4 当裁判所が認定した事実

一件記録及び当家庭裁判所調査官作成の調査報告書によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 申立人は肩書住所地に事務所を設け、昭和47年に行政書士法第6条により行政書士として登録され、以来兵庫県行政書士会に所属して行政書士の業務を営むものである。

(2) 申立人は、上記鳥山清の除籍謄本交付(送付)申請をする6日前の昭和57年6月6日に、相手方に対し、同じく鳥山清の除籍謄本の交付(送付)申請をなし、その際は、行政書士中尾一臣事務所と表示されたゴム印のみを押捺し、職印も認印も押捺しないで、交付(送付)申請書を郵送し、同申請書は同月8日に相手方に到達した。

(3) 同申請書を受領した相手方役場の事務使員本田厚子は、同月9日、朱色で印刷された相手方町長の記名押印(職印)のある符箋を使用し、自らの判断で、(イ)○○町備付の申請書用紙を使用すること、(ロ)行政書士の職印を押捺すること、(ハ)請求の事由を明確にすること、(ニ)手数料は現金又は為替で納入することなどを略記し、これら不備な点を補正したうえで改めて申請しなおすように指示し、同日同申請書を申立人に返送した。

(4) そこで、申立人は、同月12日付で、前記2申立ての理由(1)記載のとおりの方法で再度相手方に交付(送付)申請書を郵送した。

(5) 同申請書を受領した相手方役場の事務吏員林泰子は、同月22日、上記(3)と同様朱色で印刷された相手方町長の記名押印(職印)のある符箋を使用し、自らの判断で、申立人の職印を押捺するよう記載し、これを申立人の上記交付(送付)申請書に同封して、同月24日申立人に返送した。

(6) その後、○○町役場町民課では、上記朱色で印刷された相手方町長の記名、押印(職印)のある符箋の使用を廃止し、相手方町長の記名押印の印刷されていない○○町役場町民課の符箋を別に作成し、これを連絡票として使用するように改められた。

5 当裁判所の判断

(1) 相手方は、相手方が本件について行つた措置は、単に申立人が行政書士として職印を押捺しないことによる申請書の不備を指摘し、その補正を促し、改めて申請するよう要請したもので、戸籍事務管掌者として、申立人を行政指導したにすぎず、除籍謄本交付(送付)請求に対する拒否処分には当らないと主張する。しかし、前認定のとおり、相手方は、申立人からなされた除籍謄本交付(送付)請求について、行政書士である申立人の職印の押捺がないことを理由に、朱色で印刷された相手方町長の記名押印(職印)のある符箋紙に、行政書士の職印の押捺を必要とする旨を記載し、これを申立人の交付(送付)申請書に同封して申立人に返戻しており、その行為は、相手方が申立人からなされた除籍謄本交付(送付)申請書に、行政書士としての職印の押捺がなされなければ交付(送付)請求に応じない旨の意思表示をしたものと解され、しかも申立人は、相手方から交付(送付)を受けられないことによつて不利益を蒙ることになるのであるから相手方の行為は、申立人の交付(送付)請求に対する拒否処分とみるのが相当である。

(2) そこで、相手方が申立人の本件除籍謄本交付(送付)請求に対してなした拒否処分の当否について判断する。

前認定のとおり、申立人は、昭和57年6月14日相手方到達の除籍謄本交付(送付)申請書による交付(送付)請求を、戸籍法第12条の2第1項後段並びに同法施行規則第11条の2第1項第2号及び同条の2第2項に基づいて、行政書士が職務上必要とする場合であるとしてなしており、その際申請書の申請(請求)者の欄に、前記住所及び行政書士中尾一臣事務所とゴム印により押捺し、その右脇に「中尾」の印鑑(認印)を押捺し、行政書士の職印を押捺しなかつたものであるところ、相手方は、同月9日付の符箋で、すでに職印の押捺方を指示しているのに、あえて職印を押捺せず、自己の印鑑(認印)を押捺し、申請書末尾に職務上の請求とのみ記載するに止まることから、申立人の行政書士の資格に疑念を抱かしめるものがあるとして、申立人が職印を押捺しない限り交付(送付)請求を拒否するという行為に出たものである。

戸籍法の昭和51年の一部改正により、戸籍公開の制度とプライバシーの保護の調整がはかられ、除籍謄本の交付請求についても、請求者や請求の事由に関し、要件がやや厳格に規定されることになつたが、行政書士等一定の有資格者については、職務上必要とする場合に限つて、戸籍法第12条の2第2項所定の請求の事由を明らかにすることを要しないで、常に除籍謄本を請求することができるものとされた。ただ、その反面、行政書士等一定の有資格者に対しては、除籍謄本の交付事務、特に請求者の資格の審査事務を容易にするため、請求書に資格を具体的に明記し、可能な限り職印を押捺するように法務省民事局長から日本行政書士連合会長あてに文書で協力依願がなされている。

ところで、本件のように、遠隔の地から郵便によつて除籍謄本の交付(送付)請求がなされるような場合は、請求者が行政書士として有資格者であるか否かを確認するについては、申請書に押捺された職印の印影が有力な資料となることはいうまでもない。そして、行政書士は、行政書士法施行規則により職印の調整が義務づけられ、自ら作成した書類については、当該書類に記名して職印を押捺すべきものとされており、したがつて、一般的に行政書士は常時職印を保持しており、容易に押印できる状況にあるものと推認されるところ、申立人がなぜあえて本件申請において職印の押捺をしないのかに相手方が疑問を抱き、ひいては申立人の行政書士の資格に疑念をさしはさんだとしても、それは必しも不自然なことではない。

しかし、本件についてみるに、前認定のように、除籍謄本交付申請書自体に、申立人の住所、資格、氏名がゴム印で押捺されて明示されており、その右脇に「中尾」の印鑑(認印)が押捺されているのであるから、これをもつて申請者である申立人が行政書士の資格に欠けるとみるのは相当でなく、むしろ、総体的に判断して,行政書士である申立人の申請として事を処理すべきである。もし、窓口事務を取扱う係官において疑問があれば、まず上司に相談し助言を求めるなどしたうえで適切な処置をとるべく配慮し、手続面においても慎重な態度をとるべきである。相手方が、申立人の職印の押捺がないことの一事をもつて、そして窓口事務を取扱う係官の判断のみによつて、しかも相手方町長の記名押印のある符箋に指示事項を略記して交付(送付)申請書を申立人に返戻した措置は、形式的・画一的に運用したきらいがあり、交付(送付)請求者である申立人と交付(送付)者である相手方とが遠隔地にあつて意志の疎通を欠いたとはいえ、戸籍事務管掌者である相手方の処分としては、裁量の範囲を著しく逸脱したもので、正当な理由を認め難く、前記戸籍法及び同法施行規則の各法条に違反し、不当であるといわざるをえない。

(3) なお、相手方は、職印の押捺を求めてなした本件除籍謄本交付(送付)請求拒否の処分が仮に違法であるとしても、申立人において、手数料を郵券で代納する方法を現金又は為替で納付する方法に変えない限り、申立人の上記交付(送付)請求を拒否せざるをえない、と主張する。なるほど、手数料を現金もしくは為替等によらず、手数料相当額の郵券をもつて代納することは、相手方の指摘するとおり、戸籍手数料令に違背するところであり、相手方の会計事務処理上許されないことであろう。しかし、従来から遠隔地にあるものが戸(除)籍謄抄本の交付(送付)を郵送の方法により請求する場合に郵券を手数料として代納することは、一般的に金額が少額であることもあつて、必ずしも望ましいものではないとされながらも、その例はかなり多くみられたところであり、これらの事実に徴すると、戸籍事務管掌者としては、今後、上記手数料の納付について手続上簡便で安価な方法(たとえば郵便局の定額小為替など)を利用するよう啓蒙指導をさらにはかるべきであり、郵券で手数料を代納したからといつて、もし交付(送付)請求を拒否する措置をとるとするならば、それは請求者に著しい不利益を与えることになり、権衡を失する処分になるというべきである。相手方の仮定的な意見に対してではあるが、あえてこの点について判断し、主文の内容に加えることとした。

6 以上の次第で、申立人の本件不服の申立ては理由があるのでこれを認容し、特別家事審判規則第15条に則り、主文第1項のとおり審判し、なお、本件手続費用については、家事審判法第7条により非訟事件手続法第27条(第26条)を準用して、主文第2項のとおり審判する。

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